「後継者はもう決まっています」
「息子も会社に入っています」
「本人も継ぐつもりです」
——それなら、事業承継は順調に進みそうです。
でも実際には、
後継者は決まっている。
本人にもその意思がある。
何年も会社で働いている。
それなのに、なかなか社長交代が進まない。
そんな会社があります。
現社長からすると、
「まだ任せるには早い」
後継者からすると、
「いつまで経っても任せてもらえない」
社員からすると、
「結局、どちらが社長なのか分からない」
そんな状態が何年も続く。
なぜでしょうか。
私は、
後継者を決めることと、経営を渡すことは違う。
からだと思っています。
後継者が決まっただけでは、
- 権限
- 経験
- 社員からの信頼
- 経営者としての立場
は、自動的には移りません。
事業承継を進めるには、
「誰が継ぐか」の次に、「何を、いつ、どこまで渡すのか」を考える。
必要があります。
後継者が決まると、安心してしまう
事業承継の大きな悩みの一つは、
「後継者がいない」
ことです。
ですから、
- 息子が継ぐと言ってくれた
- 社員の中から後継者候補が見つかった
となると、社長としてはかなり安心します。
「これで会社は大丈夫だ」
と思う。
でも、ここが事業承継のゴールではありません。
むしろ、
ここからが本当の承継の始まりです。
後継者候補から、経営者へ。
社員から、会社を背負う人へ。
その変化には時間がかかります。
そして、その変化をつくるのは後継者本人だけではありません。
- 現社長
- 管理職
- 社員
- 取引先
- 金融機関
会社全体が少しずつ、
「次の社長」
を社長として扱うようになっていく必要があります。
後継者がいるのに事業承継が進まないとき、確認したい5つのこと
後継者が決まっている。
でも、なかなか承継が進まない。
そんなときは、次の5つを確認してみてください。
事業承継が進まないときに確認したい5つのこと
- 後継者に「仕事」だけでなく「権限」を渡しているか
- 現社長と後継者で、会社の未来について話しているか
- 社員が、後継者を「次の社長」として見ているか
- 現社長と後継者の役割が曖昧になっていないか
- 現社長が「任せる」と「口を出さない」を混同していないか
① 後継者に「仕事」だけでなく「権限」を渡しているか
後継者に、
- 営業部門を任せている
- 採用を任せている
- 新規事業を任せている
それでも、重要なことは全部社長が決める。
という会社があります。
たとえば、後継者が、
「この人を採用したい」
と言う。
最後は社長が決める。
「この設備に投資したい」
と言う。
最後は社長が決める。
「この取引条件を変えたい」
と言う。
最後は社長が決める。
本人には仕事を任せているように見えても、
意思決定は何も渡していない。
という状態です。
これでは、後継者はいつまでも、
「責任のある社員」
のままです。
経営者になるには、自分で決める経験が必要です。
そして、決めた結果がうまくいかなかった経験も必要です。
だから、いきなり全部を渡す必要はありません。
- この金額までは任せる
- この部門の人事は任せる
- このお客様については任せる
- この事業については最終判断も任せる
というように、
仕事ではなく、意思決定の範囲を少しずつ広げていく。
これが大切です。
② 現社長と後継者で、会社の未来について話しているか
親子で事業承継する会社ほど、意外と話していないことがあります。
毎日会社で会っている。
仕事の話もしている。
だから、
「分かっているだろう」
と思う。
でも、日々の仕事について話すことと、会社の未来について話すことは違います。
- なぜこの会社を続けたいのか
- 今後どんな会社にしたいのか
- 何を残したいのか
- 何は変えてもいいのか
- 社員にどんな会社だと思ってほしいのか
現社長は、
「当然分かっている」
と思っている。
後継者は、
「そんな話は聞いたことがない」
ということがあります。
逆もあります。
後継者は、新しい事業をやりたい。
働き方も変えたい。
組織も変えたい。
でも現社長には、
「今までの会社を否定された」
ように聞こえる。
そして対立する。
ここで必要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。
何を受け継ぎ、何を変えるのかを一緒に言葉にすること。
です。
「以心伝心」ではなく、きちんと話す。
親子であっても、むしろ親子だからこそ、意識して話す必要があります。
③ 社員が、後継者を「次の社長」として見ているか
社長と後継者の間では、
「この人が次の社長」
と決まっている。
でも、社員には十分伝わっていない。
というケースがあります。
すると社員は、重要な相談を現社長へ持っていきます。
後継者が判断しても、
「一応、社長にも確認しておきます」
となる。
現社長も、社員から相談されたら答える。
すると、後継者から見ると、
「自分に任せると言ったのに、結局社長が決めている」
となります。
社員からすれば、悪気はありません。
今まで何十年も、社長に聞けば答えが出た。
その習慣が残っているだけです。
だから、現社長自身が、
「今後、この件は〇〇が判断する」
「この部門については〇〇に聞いてほしい」
と社員へ伝える必要があります。
そして、社員が後継者へ相談したとき、現社長へ戻さない。
次の社長を社長にしていくのは、肩書きではなく、日々の意思決定の積み重ねです。
④ 現社長と後継者の役割が曖昧になっていないか
事業承継の途中では、現社長と後継者が二人とも会社にいます。
この期間は、とても重要です。
一方で、役割が曖昧になると問題も起きます。
現社長は、
「もう任せている」
と思っている。
後継者は、
「最後は全部社長が決める」
と思っている。
社員は、
「どちらに聞けばいいのか分からない」
と思っている。
これでは、二人いることで、むしろ会社の判断が遅くなります。
だから、承継期間中ほど、役割を明確にする必要があります。
- 既存の大口取引は現社長
- 新規事業は後継者
- 人事の最終決定は当面現社長
- 採用は後継者
- 銀行対応は二人で行う
というように、今の段階で、誰が何を決めるのかを整理する。
そして、半年後。
一年後。
二年後。
少しずつ後継者の範囲を広げる。
事業承継には、「途中の役割設計」も必要です。
⑤ 現社長が「任せる」と「口を出さない」を混同していないか
ここは少し難しい話です。
後継者に任せる。
だから、何も言わない。
失敗しても放っておく。
それが良い承継かというと、そうではありません。
現社長には、何十年もの経験があります。
その経験を使わないのは、もったいない。
大切なのは、
代わりに決めるのではなく、考える材料を渡すこと。
です。
後継者が、
「このお客様との取引をやめようと思う」
と言った。
そこで、
「ダメだ」
と止めるのではなく、
- 「なぜそう考えた?」
- 「このお客様との過去の経緯は知っている?」
- 「取引をやめた場合、他にどんな影響があると思う?」
と聞く。
最後に決めるのは後継者。
でも、現社長の経験は渡す。
これは、第4回の管理職育成とも似ています。
答えを渡すのではなく、
判断できるように経験を渡す。
事業承継でも、とても重要だと思います。
「まだ早い」は、いつまで続くのか
後継者がいる会社で、よく聞く言葉があります。
「まだ早い」
です。
- まだ経験が足りない
- まだ人望が足りない
- まだ数字が分かっていない
- まだ任せられない
確かにそうかもしれません。
でも、ここで考えたいことがあります。
何ができたら「任せられる」のか。
です。
それが決まっていなければ、
「まだ早い」
はいつまでも続きます。
後継者が40歳。
社長が65歳。
まだ早い。
後継者が45歳。
社長が70歳。
まだ早い。
そして、ある日突然、
「もう自分も年だから、来月から社長をやってくれ」
となる。
これは後継者にとってかなり厳しい話です。
だから、
- 何年後に社長を交代するのか
- それまでに、どんな経験をしてほしいのか
- どこまで判断できるようになってほしいのか
ある程度の目安を決める。
もちろん、計画通りにいかないこともあります。
それでも、
ゴールのない育成より、ゴールのある育成の方が進みやすい。
と思います。
後継者は、先代と同じ経営者にならなくていい
事業承継で、現社長が無意識に求めてしまうことがあります。
「自分ならこうする」
です。
- 自分なら、もっと早く決める
- もっとお客様のところへ行く
- もっと社員に厳しく言う
- もっと数字を見る
後継者を見ると、足りないところが目につきます。
それは当然です。
現社長は何十年も経営をしています。
後継者はまだ途中です。
同じ土俵で比べれば、現社長の方ができることが多い。
でも、後継者には後継者の強みがあります。
- デジタルに強い
- 若手社員と話せる
- 新しい顧客を開拓できる
- 新しい働き方をつくれる
- 先代とは違うネットワークがある
事業承継は、
先代と同じ社長をもう一人作ることではありません。
会社が大切にするものは引き継ぐ。
でも、経営のやり方まで同じにする必要はない。
後継者が、自分の経営をつくれる余白を残すことも大切です。
後継者が社員から信頼されるには、時間がかかる
特に親族内承継では、後継者が、
「社長の息子」
として見られます。
これは良くも悪くも避けられません。
社員からすると、
「どうせ次の社長になる人」
に見える。
本人が一生懸命でも、最初から色眼鏡で見られることがあります。
だから、後継者には、
社員から信頼されるための時間
が必要です。
- 一緒に現場で働く
- 困ったときに助ける
- 判断する
- 失敗したら謝る
- 社員の話を聞く
- 結果を出す
そうした経験の積み重ねで、少しずつ、
「社長の息子」から、「この人なら任せてもいい」へ。
変わっていく。
これは、代表取締役になったその日に起きることではありません。
だから、後継者を会社に入れて、いきなり社長にするより、社員との関係をつくる期間を持った方がいいと思います。
先代がいることは、後継者にとって強みにも弱みにもなる
承継後も、先代社長が会長などとして会社に残ることがあります。
これは悪いことではありません。
むしろ、
- 取引先
- 金融機関
- 重要な人脈
- 会社の歴史
について、先代が支えることは大きな強みです。
一方で、先代が何でも決め続ければ、後継者はいつまでも社長になれません。
社員も、
「困ったら会長に聞けばいい」
となります。
だから、先代が残るなら、
何をする人なのか
を決めた方がいい。
- 新社長から相談されたときだけ助言する
- 特定の取引先だけ引き継ぐ
- 経営判断には原則口を出さない
- 月に一度だけ経営について話す
など、距離の取り方を決める。
先代は、会社から消える必要はありません。
でも、
「まだ自分が社長」という状態からは離れる必要があります。
事業承継が進まないのは、後継者の能力不足だけではない
事業承継がなかなか進まないと、
「後継者がまだ頼りない」
という話になりがちです。
もちろん、本人が学ぶことはたくさんあります。
でも、それだけでしょうか。
- 権限を渡していない
- 失敗する機会を与えていない
- 社員へ後継者の立場を伝えていない
- 現社長がすべて判断している
- 承継の時期も決まっていない
その状態で、
「まだ社長として頼りない」
と言われても、後継者からすると難しいでしょう。
人は、役割を与えられて初めて育つ部分があります。
経営者も同じです。
経営者になる前に、
- 経営者として考える機会を渡す
- 判断する機会を渡す
- 責任を持つ機会を渡す
そうやって、少しずつ育てていく。
事業承継は、後継者を評価するだけではなく、
後継者が育つ環境を会社側がつくれているか。
も見る必要があります。
「社長を、楽にする。」事業承継にする
JAPANVISIONのMissionは、
「社長を、楽にする。」
です。
事業承継の準備をすると、少しずつ、
- 社長しか知らなかったことが共有される
- 社長しか決められなかったことを、後継者が決める
- 管理職が後継者を支える
- 社員が次の社長へ相談する
- 現社長がいなくても、会社が回る時間が増える
これは、将来のためだけではありません。
今の社長自身も、少しずつ楽になります。
そして、今の社長が楽になっていない会社は、後継者に渡した瞬間に、
その負担を丸ごと次の社長へ渡すことになります。
それでは、
「人が変わっただけ」
です。
目指したいのは、
社長という一人の人間に依存しすぎない会社を、次の世代へ渡すこと。
だと思っています。
社長が楽になれば、会社はもっと良くなる。
そして、次の社長も、会社の未来を考える仕事に時間を使える。
そんな承継にしたいものです。
まとめ|後継者を決めたあとに、本当の事業承継が始まる
後継者はいる。
本人にも継ぐ意思がある。
それでも事業承継が進まない。
そんなとき、後継者本人だけを見る前に確認してみてください。
- 仕事だけでなく、権限を渡しているか
- 会社の未来について話しているか
- 社員が後継者を次の社長として見ているか
- 現社長と後継者の役割は明確か
- 現社長の経験を、答えではなく判断材料として渡せているか
- 「いつか任せる」ではなく、「何を、いつまでに任せるのか」が見えているか
後継者を決めることは、大きな一歩です。
でも、それだけでは経営は移りません。
権限を渡す。
経験を渡す。
社員との関係をつくる。
失敗する機会を渡す。
先代が少しずつ離れる。
その積み重ねによって、後継者は、
「次の社長候補」から、本当の社長へ。
変わっていきます。
後継者を決めることと、経営を渡すことは違う。
事業承継が進まないと感じたときは、後継者に何が足りないかだけではなく、
「会社は、後継者に何をまだ渡していないのか」
を考えてみる。
そこに、次の一歩があるかもしれません。
事業承継が進まず、お悩みですか?
JAPANVISIONでは、中小企業の社長のための事業承継・後継者育成・管理職育成・組織づくりのご相談を承っています。
「後継者はいるのに承継が進まない」「どこまで任せればいいのか分からない」という段階からでも、人と組織の面から一緒に整理することができます。
コメントを残す