社長の100の悩み

, ,

後継者はいるのに、事業承継がうまく進まないのはなぜ? 社長の100の悩み|第10回

「後継者はもう決まっています」

「息子も会社に入っています」

「本人も継ぐつもりです」

——それなら、事業承継は順調に進みそうです。

でも実際には、

後継者は決まっている。

本人にもその意思がある。

何年も会社で働いている。

それなのに、なかなか社長交代が進まない。

そんな会社があります。

現社長からすると、

「まだ任せるには早い」

後継者からすると、

「いつまで経っても任せてもらえない」

社員からすると、

「結局、どちらが社長なのか分からない」

そんな状態が何年も続く。

なぜでしょうか。

私は、

後継者を決めることと、経営を渡すことは違う。

からだと思っています。

後継者が決まっただけでは、

  • 権限
  • 経験
  • 社員からの信頼
  • 経営者としての立場

は、自動的には移りません。

事業承継を進めるには、

「誰が継ぐか」の次に、「何を、いつ、どこまで渡すのか」を考える。

必要があります。

後継者が決まると、安心してしまう

事業承継の大きな悩みの一つは、

「後継者がいない」

ことです。

ですから、

  • 息子が継ぐと言ってくれた
  • 社員の中から後継者候補が見つかった

となると、社長としてはかなり安心します。

「これで会社は大丈夫だ」

と思う。

でも、ここが事業承継のゴールではありません。

むしろ、

ここからが本当の承継の始まりです。

後継者候補から、経営者へ。

社員から、会社を背負う人へ。

その変化には時間がかかります。

そして、その変化をつくるのは後継者本人だけではありません。

  • 現社長
  • 管理職
  • 社員
  • 取引先
  • 金融機関

会社全体が少しずつ、

「次の社長」

を社長として扱うようになっていく必要があります。

後継者がいるのに事業承継が進まないとき、確認したい5つのこと

後継者が決まっている。

でも、なかなか承継が進まない。

そんなときは、次の5つを確認してみてください。

事業承継が進まないときに確認したい5つのこと

  1. 後継者に「仕事」だけでなく「権限」を渡しているか
  2. 現社長と後継者で、会社の未来について話しているか
  3. 社員が、後継者を「次の社長」として見ているか
  4. 現社長と後継者の役割が曖昧になっていないか
  5. 現社長が「任せる」と「口を出さない」を混同していないか

① 後継者に「仕事」だけでなく「権限」を渡しているか

後継者に、

  • 営業部門を任せている
  • 採用を任せている
  • 新規事業を任せている

それでも、重要なことは全部社長が決める。

という会社があります。

たとえば、後継者が、

「この人を採用したい」

と言う。

最後は社長が決める。

「この設備に投資したい」

と言う。

最後は社長が決める。

「この取引条件を変えたい」

と言う。

最後は社長が決める。

本人には仕事を任せているように見えても、

意思決定は何も渡していない。

という状態です。

これでは、後継者はいつまでも、

「責任のある社員」

のままです。

経営者になるには、自分で決める経験が必要です。

そして、決めた結果がうまくいかなかった経験も必要です。

だから、いきなり全部を渡す必要はありません。

  • この金額までは任せる
  • この部門の人事は任せる
  • このお客様については任せる
  • この事業については最終判断も任せる

というように、

仕事ではなく、意思決定の範囲を少しずつ広げていく。

これが大切です。

② 現社長と後継者で、会社の未来について話しているか

親子で事業承継する会社ほど、意外と話していないことがあります。

毎日会社で会っている。

仕事の話もしている。

だから、

「分かっているだろう」

と思う。

でも、日々の仕事について話すことと、会社の未来について話すことは違います。

  • なぜこの会社を続けたいのか
  • 今後どんな会社にしたいのか
  • 何を残したいのか
  • 何は変えてもいいのか
  • 社員にどんな会社だと思ってほしいのか

現社長は、

「当然分かっている」

と思っている。

後継者は、

「そんな話は聞いたことがない」

ということがあります。

逆もあります。

後継者は、新しい事業をやりたい。

働き方も変えたい。

組織も変えたい。

でも現社長には、

「今までの会社を否定された」

ように聞こえる。

そして対立する。

ここで必要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。

何を受け継ぎ、何を変えるのかを一緒に言葉にすること。

です。

「以心伝心」ではなく、きちんと話す。

親子であっても、むしろ親子だからこそ、意識して話す必要があります。

③ 社員が、後継者を「次の社長」として見ているか

社長と後継者の間では、

「この人が次の社長」

と決まっている。

でも、社員には十分伝わっていない。

というケースがあります。

すると社員は、重要な相談を現社長へ持っていきます。

後継者が判断しても、

「一応、社長にも確認しておきます」

となる。

現社長も、社員から相談されたら答える。

すると、後継者から見ると、

「自分に任せると言ったのに、結局社長が決めている」

となります。

社員からすれば、悪気はありません。

今まで何十年も、社長に聞けば答えが出た。

その習慣が残っているだけです。

だから、現社長自身が、

「今後、この件は〇〇が判断する」

「この部門については〇〇に聞いてほしい」

と社員へ伝える必要があります。

そして、社員が後継者へ相談したとき、現社長へ戻さない。

次の社長を社長にしていくのは、肩書きではなく、日々の意思決定の積み重ねです。

④ 現社長と後継者の役割が曖昧になっていないか

事業承継の途中では、現社長と後継者が二人とも会社にいます。

この期間は、とても重要です。

一方で、役割が曖昧になると問題も起きます。

現社長は、

「もう任せている」

と思っている。

後継者は、

「最後は全部社長が決める」

と思っている。

社員は、

「どちらに聞けばいいのか分からない」

と思っている。

これでは、二人いることで、むしろ会社の判断が遅くなります。

だから、承継期間中ほど、役割を明確にする必要があります。

  • 既存の大口取引は現社長
  • 新規事業は後継者
  • 人事の最終決定は当面現社長
  • 採用は後継者
  • 銀行対応は二人で行う

というように、今の段階で、誰が何を決めるのかを整理する。

そして、半年後。

一年後。

二年後。

少しずつ後継者の範囲を広げる。

事業承継には、「途中の役割設計」も必要です。

⑤ 現社長が「任せる」と「口を出さない」を混同していないか

ここは少し難しい話です。

後継者に任せる。

だから、何も言わない。

失敗しても放っておく。

それが良い承継かというと、そうではありません。

現社長には、何十年もの経験があります。

その経験を使わないのは、もったいない。

大切なのは、

代わりに決めるのではなく、考える材料を渡すこと。

です。

後継者が、

「このお客様との取引をやめようと思う」

と言った。

そこで、

「ダメだ」

と止めるのではなく、

  • 「なぜそう考えた?」
  • 「このお客様との過去の経緯は知っている?」
  • 「取引をやめた場合、他にどんな影響があると思う?」

と聞く。

最後に決めるのは後継者。

でも、現社長の経験は渡す。

これは、第4回の管理職育成とも似ています。

答えを渡すのではなく、

判断できるように経験を渡す。

事業承継でも、とても重要だと思います。

「まだ早い」は、いつまで続くのか

後継者がいる会社で、よく聞く言葉があります。

「まだ早い」

です。

  • まだ経験が足りない
  • まだ人望が足りない
  • まだ数字が分かっていない
  • まだ任せられない

確かにそうかもしれません。

でも、ここで考えたいことがあります。

何ができたら「任せられる」のか。

です。

それが決まっていなければ、

「まだ早い」

はいつまでも続きます。

後継者が40歳。

社長が65歳。

まだ早い。

後継者が45歳。

社長が70歳。

まだ早い。

そして、ある日突然、

「もう自分も年だから、来月から社長をやってくれ」

となる。

これは後継者にとってかなり厳しい話です。

だから、

  • 何年後に社長を交代するのか
  • それまでに、どんな経験をしてほしいのか
  • どこまで判断できるようになってほしいのか

ある程度の目安を決める。

もちろん、計画通りにいかないこともあります。

それでも、

ゴールのない育成より、ゴールのある育成の方が進みやすい。

と思います。

後継者は、先代と同じ経営者にならなくていい

事業承継で、現社長が無意識に求めてしまうことがあります。

「自分ならこうする」

です。

  • 自分なら、もっと早く決める
  • もっとお客様のところへ行く
  • もっと社員に厳しく言う
  • もっと数字を見る

後継者を見ると、足りないところが目につきます。

それは当然です。

現社長は何十年も経営をしています。

後継者はまだ途中です。

同じ土俵で比べれば、現社長の方ができることが多い。

でも、後継者には後継者の強みがあります。

  • デジタルに強い
  • 若手社員と話せる
  • 新しい顧客を開拓できる
  • 新しい働き方をつくれる
  • 先代とは違うネットワークがある

事業承継は、

先代と同じ社長をもう一人作ることではありません。

会社が大切にするものは引き継ぐ。

でも、経営のやり方まで同じにする必要はない。

後継者が、自分の経営をつくれる余白を残すことも大切です。

後継者が社員から信頼されるには、時間がかかる

特に親族内承継では、後継者が、

「社長の息子」

として見られます。

これは良くも悪くも避けられません。

社員からすると、

「どうせ次の社長になる人」

に見える。

本人が一生懸命でも、最初から色眼鏡で見られることがあります。

だから、後継者には、

社員から信頼されるための時間

が必要です。

  • 一緒に現場で働く
  • 困ったときに助ける
  • 判断する
  • 失敗したら謝る
  • 社員の話を聞く
  • 結果を出す

そうした経験の積み重ねで、少しずつ、

「社長の息子」から、「この人なら任せてもいい」へ。

変わっていく。

これは、代表取締役になったその日に起きることではありません。

だから、後継者を会社に入れて、いきなり社長にするより、社員との関係をつくる期間を持った方がいいと思います。

先代がいることは、後継者にとって強みにも弱みにもなる

承継後も、先代社長が会長などとして会社に残ることがあります。

これは悪いことではありません。

むしろ、

  • 取引先
  • 金融機関
  • 重要な人脈
  • 会社の歴史

について、先代が支えることは大きな強みです。

一方で、先代が何でも決め続ければ、後継者はいつまでも社長になれません。

社員も、

「困ったら会長に聞けばいい」

となります。

だから、先代が残るなら、

何をする人なのか

を決めた方がいい。

  • 新社長から相談されたときだけ助言する
  • 特定の取引先だけ引き継ぐ
  • 経営判断には原則口を出さない
  • 月に一度だけ経営について話す

など、距離の取り方を決める。

先代は、会社から消える必要はありません。

でも、

「まだ自分が社長」という状態からは離れる必要があります。

事業承継が進まないのは、後継者の能力不足だけではない

事業承継がなかなか進まないと、

「後継者がまだ頼りない」

という話になりがちです。

もちろん、本人が学ぶことはたくさんあります。

でも、それだけでしょうか。

  • 権限を渡していない
  • 失敗する機会を与えていない
  • 社員へ後継者の立場を伝えていない
  • 現社長がすべて判断している
  • 承継の時期も決まっていない

その状態で、

「まだ社長として頼りない」

と言われても、後継者からすると難しいでしょう。

人は、役割を与えられて初めて育つ部分があります。

経営者も同じです。

経営者になる前に、

  • 経営者として考える機会を渡す
  • 判断する機会を渡す
  • 責任を持つ機会を渡す

そうやって、少しずつ育てていく。

事業承継は、後継者を評価するだけではなく、

後継者が育つ環境を会社側がつくれているか。

も見る必要があります。

「社長を、楽にする。」事業承継にする

JAPANVISIONのMissionは、

「社長を、楽にする。」

です。

事業承継の準備をすると、少しずつ、

  • 社長しか知らなかったことが共有される
  • 社長しか決められなかったことを、後継者が決める
  • 管理職が後継者を支える
  • 社員が次の社長へ相談する
  • 現社長がいなくても、会社が回る時間が増える

これは、将来のためだけではありません。

今の社長自身も、少しずつ楽になります。

そして、今の社長が楽になっていない会社は、後継者に渡した瞬間に、

その負担を丸ごと次の社長へ渡すことになります。

それでは、

「人が変わっただけ」

です。

目指したいのは、

社長という一人の人間に依存しすぎない会社を、次の世代へ渡すこと。

だと思っています。

社長が楽になれば、会社はもっと良くなる。

そして、次の社長も、会社の未来を考える仕事に時間を使える。

そんな承継にしたいものです。

まとめ|後継者を決めたあとに、本当の事業承継が始まる

後継者はいる。

本人にも継ぐ意思がある。

それでも事業承継が進まない。

そんなとき、後継者本人だけを見る前に確認してみてください。

  • 仕事だけでなく、権限を渡しているか
  • 会社の未来について話しているか
  • 社員が後継者を次の社長として見ているか
  • 現社長と後継者の役割は明確か
  • 現社長の経験を、答えではなく判断材料として渡せているか
  • 「いつか任せる」ではなく、「何を、いつまでに任せるのか」が見えているか

後継者を決めることは、大きな一歩です。

でも、それだけでは経営は移りません。

権限を渡す。

経験を渡す。

社員との関係をつくる。

失敗する機会を渡す。

先代が少しずつ離れる。

その積み重ねによって、後継者は、

「次の社長候補」から、本当の社長へ。

変わっていきます。

後継者を決めることと、経営を渡すことは違う。

事業承継が進まないと感じたときは、後継者に何が足りないかだけではなく、

「会社は、後継者に何をまだ渡していないのか」

を考えてみる。

そこに、次の一歩があるかもしれません。


事業承継が進まず、お悩みですか?

JAPANVISIONでは、中小企業の社長のための事業承継・後継者育成・管理職育成・組織づくりのご相談を承っています。
「後継者はいるのに承継が進まない」「どこまで任せればいいのか分からない」という段階からでも、人と組織の面から一緒に整理することができます。

taisaki76127のアバター

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です